『見える恐怖』(ナーザ・ネルム)
ラヴェニール文明時代の悪名高い拷問である「透迷(透過迷宮)」の誕生から、その恐ろしさ、この残虐な拷問に熱狂する民衆の心理分析、ヴェルナトールによって廃止されるまでの経緯、現代になってこの拷問が再び脚光を浴び、映画や文学、ゲームなど、様々な表現で題材として取り上げられるようになったことについての鋭い洞察が「拷問」の枠を超え、人類が根源的に持つ残虐さの心理をえぐり出す、「人禍記念博物館」の「人禍記録指定図書」に選出された大ベストセラー『拷問に使われた生物』作者による異色の傑作歴史ノンフィクション。
原書(初版)言語:セレンディール語
著者情報
ナーザ・ネルム:ヴェリアートの歴史研究者。「拷問」研究で有名。『拷問に使われた生物』が、人類による他種生物達への迫害の歴史を展示した博物館である「人禍記念博物館」の「人禍記録指定図書」に選出されている。主な著作に『拷問全史』『拷問に使われた生物』『見える恐怖』などがある。
訳注
ラヴェニール文明
一般に「美の文明」と呼ばれるように、美を「絶対善」とし、非人道的なまでに美への追究を徹底したことで有名な文明。はるか古にラヴェニール文明が滅び、その後継文明となったルウェイン文明すらもセレンディール文明に飲み込まれ滅びた現代でもなお、「美の基準」はラヴェニール文明の影響が色濃く残っているほどに大きな存在感を有し続けている。
ラヴェニール文明を象徴する存在として「セレンディール人」「リューズ」がある。ラヴェニール文明が、美に関して技術的にはもはやこれ以上はほとんど成長の余地が無い、という、限界に近いところまで到達し、停滞期に入っていた時代に生まれた伝説的な王ルーレイ・ラナディーレリーにより、絵や彫刻、物語などの「作り手」側ではなく、「対象」側、つまりモデルとなるものを美しくしてゆけばよい、という恐ろしい考え(元からラヴェニール文明にはそういう傾向はあったが)が徹底的に推し進められ、これが、後のヴェルナトールとリューズレイ、そしてセレンディール人誕生へと繋がり、このヴェルナトールとリューズレイの兄妹により、リューズとセレンディール人は完成の域に達した。
ラヴェニール文明が生み出した美には、その絶対的な美しさと共に、常に死のイメージが付きまとうほど(事実、ラヴェニール文明には、死を「美」への貢献につながるものと考える思想が根底にあった。「セレンディール人」「リューズ」訳注参照)、現代の基準では人道に反する所業を連ねたにも関わらず、今なお、多くの人々を魅了し、憧憬を以て語られる文明である。
ヴェルナトール
ラヴェニール文明時代の絶対的な権力者として君臨し、恐れられた伝説的な王。
史上最も人間を殺した人物の一人と言われているほどに「情」というものが一切無い冷酷な人物と伝えられているが、「美の文明」と呼ばれるラヴェニール文明の全盛期を築き上げ、「人類史上、最も美しい舞踊」リューズをはじめとして、現代もなお多くの人々を魅了し続ける美を残したことでも知られ、歴史上、最も知名度、影響力のある人物の一人。
双子の妹リューズレイと共にラヴェニール文明の象徴的存在となっている。
人禍記念博物館
人類が、人類以外の生物に対してもたらした禍いである「人禍」に関するあらゆる資料を収集、保管、研究、展示する博物館。
エレルリーズ・レーヴェナーによる提案が受け入れられ、竜禍記念博物館と同時に創設された。
設計は竜禍記念博物館を手掛けたルフリーク・シーリーン(事実上、2つで1つの博物館なので、建築デザインも調和している)。遠景に海と山をのぞんで敷地内に森と湖、川、草原が調和した配置になっている。
セレンディール文明創始者ラヴェニール自らが作曲した《動物たちへの鎮魂曲》が、専任の演奏者と自由参加の演奏者たちによって心を込めて演奏し続けられており、この演奏は人禍記念博物館が開館した瞬間から現在まで、一瞬たりとも途絶えたことがない。セレンディール文明誕生時から、ルグディール族の音楽洞で演奏され続けてきている音楽『太古から』と共に、セレンディール文明に生きる者であれば知らぬ者のない旋律が今、この瞬間も奏で続けられている。