2026-04-29 13:13

『希望無き者が生み出した希望』(サナイ・イーゼ)

生前は絵を描いていることを誰にも知られておらず、孤独死した自らの腐乱死体と共に、ゴミだらけの部屋に積まれていた大量の異様な絵が発見されたことで世界的に知られるようになった、孤独と憎悪、苦しみの画家と呼ばれるジギザイ・アーギの作品によって「世界のいかなるものにも共感などなく、惨めさ以外の何も持っていなかった」サナイ・イーゼが、希望を見出す。

ガダカイ国内でベストセラーになるより早く、レゴール語翻訳版が世界的ベストセラーとなり、空前のジギザイ・アーギのブーム及び、社会福祉運動の活発化を引き起こした。この大ベストセラーによる印税、多額の寄付金を元に、法と美術の力によって、「親にすら頼れない究極の孤独という極限の環境にいる子ども達」を救う支援組織を立ち上げた。

原書(初版)言語:ガダカイ語

出版:救窮出版

著者情報

サナイ・イーゼ:ガダカイの美術史家、法律家、社会活動家。ジギザイ・アーギの評伝を軸として、自らが実親や「保護」施設で受けた過酷な虐待の告発と、ジギザイ・アーギ作品によって与えられた希望と夢を織り交ぜた自伝『希望無き者が生み出した希望』が世界的ベストセラーとなった。虐待される子ども、親にすら頼れない究極の孤独という極限環境にいる子ども達を法の力で救い出し、美術の力によって精神を救い、また経済的自立もできるよう支援する活動を生涯にわたって続けた。

訳注

ジギザイ・アーギ

ガダカイの画家。ただし生前は絵を描いていることは誰にも話しておらず、孤独死した自らの腐乱死体と共に、ゴミだらけの部屋に積まれていた大量の異様な絵が発見され、生前、苦痛と孤独と絶望の中にいたであろうことが容易に推測できる壮絶な死に様も相まって、センセーショナルな報道が繰り広げられ、一気にその名と作品が広まった。

絵は全て安物の紙に描かれており、線を執拗に回転させて画面を埋め尽くすように描いた手法によるものが多い。恐らくだが、一本の線、つまり最初から最後まで線を途切れさせずに「一続きの線」で描いたものと思われる。ほとんど読み取れないが、「目」など、特に強調している部分の周辺にのみ、明らかに文字と認識できる、他の線とは異なる表現があり、一部だけだが、ほぼ確実に解読できたものは全て憎悪に満ちた言葉であったことから、他の「文字」も同様であろうとされている。

日記など、自らについて書いた文章は一切無く、交流も皆無と言ってよいほどだったので、手紙などもない。写真も一切、残してらず、遺体も発見された時にはドロドロに腐乱した状態であったことから、生前の姿は不明。ジギザイ・アーギについては、遺体発見当時に撮影されたゴミや汚物にまみれた部屋の写真や、蔵書、戸籍、通院していた病院のカルテなどの記録(恐ろしいほど多くの種類の病苦を抱えていたことが読み取られる)、そして残された作品からしか得られる情報は無い。

人を不安にさせる様な画風であるが、孤独や病気、貧困などに苦しむ人々の中に、熱狂的なファンが多い。

「仮面の画家」として有名なレゴールの画家ヴェドル・イージアは、「仮面の画家」となる以前に、ジギザイ・アーギの作品についての意見を問われた際に、「幼稚で惨めな作品だ。何故こんなに評価されているのかわからないね」と侮蔑して物議を醸したことがあったが、「仮面の画家」になった後、ジギザイ・アーギに惹かれるようになっていったという。ガダカイ国立美術館などで作品の前にたたずんでいる姿を多くの人に目撃されており、また、作品も何点か購入している。そしてジギザイ・アーギは「真の画家だ」と妻エミル・イージアやケディク・ギーバンなど身近な人間に話すようになったことが記録に残されている。

最後に描いたと思われる作品(腐乱死体の胸あたりの位置にあった絵)の竜野将による再現画